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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)2358号 判決 1979年6月28日

原告 株式会社阪神相互銀行

被告 平野眞 外一名

主文

原告の被告らに対する第一次請求を棄却する。

被告平野眞と被告永本幸男との間の別紙第一目録記載の建物に対する別紙第二目録記載の賃貸借は存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一  (当事者双方の求めた裁判)

原告訴訟代理人は、第一次請求として、「被告平野と被告永本との間の別紙第一目録記載の建物に対する別紙第二目録記載の賃貸借を解除する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、第二次請求として、主文第二・三項同旨の判決を求めた。

被告平野は、原告の第一次請求につき、請求の趣旨に対する答弁をしなかつたが、第二次請求につき、請求棄却の判決を求めた。

被告永本は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  (原告主張の請求原因)

1  原告は、昭和四九年五月二七日、被告平野に対し、金七〇〇万円を、左記約定で貸与した。

利息 一ケ月〇・七五パーセント

返済方法 昭和四九年六月二七日から同六六年五月二七日まで、毎月二七日に金三万三五五八円宛を支払う外、毎年二月二七日及び八月二七日に各金一九万八五二七円を支払う。

特約 被告平野が右分割金の支払を一回でも怠つたときは、当然に期限の利益を失い、残額を一時に支払う。

遅延損害金 年一八・二五パーセント

2  そして、原告は、右同日、被告平野から、同被告に対する右貸金債権を担保するため、同被告所有にかかる別紙第一目録記載の建物(以下本件建物という)及びその敷地に抵当権の設定を受け(以下本件抵当権という)、翌二八日、その設定登記を経由した。

3  しかるに、被告は、前記分割金のうち、昭和五〇年一二月分以降に支払うべき分割金の支払をしなかつたので、同月二七日限り当然に期限の利益を失い、原告に対し、前記貸金残元金六六九万三四三一円及びこれに対する昭和五〇年一二月二八日以降右支払済に至るまで、前記約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を即時に支払うべき債務を負担している。

4  ところで、別紙第一目録記載の本件建物については、原告よりも後順位の抵当権者である訴外大阪第一信用金庫からその抵当権の実行がなされ(大阪地方裁判所昭和五二年(ケ)第四二四号事件)、これに基づき、昭和五二年六月二八日、大阪地方裁判所において競売開始決定がなされてその頃差押の効力が生じた。ついで原告も、その後本件抵当権に基づき、本件建物に対し、競売の申立をしたので、前記大阪第一信用金庫の申立にかかる競売事件に記録添付がなされ、現在その競売手続の続行中である。

5  一方、被告平野は、原告のために本件建物に本件抵当権を設定した後の昭和五一年一月一九日、被告永本に対し、別紙第一目録記載の建物を、別紙第二目録記載の通りの約定で賃貸してその旨の賃貸借契約(以下本件賃貸借という)を締結したところ、本件賃貸借は、民法六〇二条の期間を超えない短期賃貸借であるが、次の通り、本件抵当権者である原告を害するものである。すなわち、本件建物に右賃貸借のない場合の本件建物及びその敷地の時価額は、金四一四万九〇〇〇円であるところ、右賃貸借があるため、本件建物及びその敷地の時価額は金三七四万円であり、右時価額は、原告の本件抵当権の被担保債権よりもはるかに低額であるから、本件賃貸借は原告の抵当権を害するものである。

6  よつて、原告は、民法三九五条に基づき、本件賃貸借の解除を求める。

7  仮に、右主張が認められないとしても、本件賃貸借の存続期間は、昭和五一年一月一日から同五二年一〇月三一日までであるところ、本件賃貸借の目的である本件建物については、前記の如く、その期間満了前の昭和五二年六月二八日に、後順位抵当権者の競売申立に基づき競売開始決定がなされたから、被告らは、本件賃貸借の右期間満了後はその更新をもつて、本件抵当権者である原告に対抗できないものというべきである。

したがつて、本件賃貸借は、原告との関係では、既に期間満了により終了したものというべきであるから、原告は、第二次的請求として、被告らとの間において、本件賃貸借の不存在確認を求める。

三  (被告平野の答弁)

原告主張の請求原因事実中、12の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

四  (被告永本の答弁・主張)

1  原告主張の請求原因事実中、被告永本が昭和五一年一月一九日被告平野から本件建物を賃借したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  被告永本は、仲介業者である訴外石橋商事の仲介により、昭和五一年一月一九日、保証金八〇万円を支払つて被告平野から正当に本件建物を賃借したものであつて、本件建物に正当な賃借権を有しており、かつ、右賃借権を原告に対抗し得るものである。したがつて、原告の本訴請求には応じ難い。

五  (被告永本の右主張に対する原告の答弁)

本件建物に対する本件賃貸借が原告に対抗し得るとの右被告永本の主張は争う。

六  (証拠関係)<省略>

理由

一  成立に争いのない甲第一号証の一、二、証人池田和男の証言及び弁論の全趣旨により被告平野作成名義部分の成立を認め得る甲第二号証(その余の作成名義部分の成立は暫く措く)、その方式内容その他弁論の全趣旨により成立の認め得る甲第四号証、証人池田和男の証言、被告平野眞本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。すなわち、(1) 、原告は、昭和四九年五月二七日、被告平野に対し、金七〇〇万円を、左記約定、すなわち、利息は一ケ月〇・七五パーセント、返済方法は、昭和四九年六月二七日から同六六年五月二七日まで、二〇四ケ月の間、毎月二七日に金三万三五五八円宛を支払う外、毎年二月二七日及び八月二七日に各金一九万八五二七円を支払う。遅延損害金は年一八・二五パーセントとする旨の約定で貸与し、なお、その際、被告平野が右分割金の支払を一回でも怠つたときは当然に期限の利益を失い、残額を一時に支払う旨の特約がなされたこと、(2) 、そして原告は、被告平野に対する右貸金債権を担保するため、被告平野から、同被告所有にかかる別紙第一目録記載の本件建物及びその敷地に本件抵当権(建物については順位一番)の設定を受け、翌二八日、その旨の設定登記を経由したこと、(3) 、しかるに、被告平野は、その後前記分割弁済金のうち、昭和五〇年一二月二七日に支払うべき分割弁済金の支払をしなかつたので、右同日限り期限の利益を失い、現在、原告に対し、前記貸金残元金六六九万三四三一円及びこれに対する昭和五〇年一二月二八日以降右支払済に至るまで前記約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を即時に支払うべき債務を負担していること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  次に、前掲甲第一号証の一、二、証人池田和男の証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

すなわち、被告平野は、本件建物及びその敷地に対し、原告のため本件抵当権を設定した後の昭和五一年六月二二日頃、訴外大阪第一信用金庫のため、本件建物及びその敷地に抵当権(建物については順位四番)を設定し、同年七月五日その旨の抵当権設定登記をしたこと、その後右大阪第一信用金庫は、右抵当権に基づき、本件建物及びその敷地につき競売の申立をした結果(大阪地方裁判所昭和五二年(ケ)第四二四号事件)、昭和五二年六月二八日、大阪地方裁判所において競売開始がなされ、同月二九日競売申立記入の登記がなされ、債務者である被告平野にもその頃右決定が送達されて差押の効力が生じたこと、その後、原告も本件抵当権に基づき、本件建物及びその敷地につき競売の申立をしたので、前記大阪第一信用金庫の申立にかかる競売事件に記録添付がなされ、現在その競売手続の続行中であること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

三  次に、被告平野眞本人尋問の結果により成立の認め得る乙第一号証、被告平野眞本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、被告平野は、原告のために、本件建物につき本件抵当権を設定した後の昭和五一年一月一九日、被告永本に対し、本件建物につき別紙第二目録記載の本件賃貸借契約を締結して、本件建物を賃貸したこと、そして、右賃貸借は、民法六〇二条の期間を超えない短期賃貸借であつて、当初は本件抵当権である原告に対抗し得るものであつたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

四  ところで、原告は、第一次的に、本件賃貸借は本件抵当権者である原告を害するから民法三九五条によりその解除を求めると主張している。しかしながら、民法三九五条により抵当権者に対抗し得る短期賃貸借の期間が、抵当権実行による差押の効力が生じた後に満了した場合には、賃借人は、借家法二条による法定更新をもつて抵当権者に対抗できないものというべきである(最高裁判所昭和三八年八月二七日判決・民集一七巻六号八七一頁参照)。これを本件についてみるに、本件賃貸借は、前述のとおり、原告が本件建物につき、本件抵当権の設定登記を経由した後の昭和五一年一月一九日締結され、その期間は昭和五二年一二月三一日に終了するものであるところ、本件建物については、右期間満了前の昭和五二年六月二八日、本件抵当権の後順位抵当権者の競売申立に基づいて競売開始決定がなされてその頃差押の効力が生じたから、被告永本は、本件賃貸借の期間満了後は、その法定更新をもつて、先順位の本件抵当権者である原告にも対抗し得ないものというべきである。けだし、前記競売開始決定は、本件抵当権よりも後順位の抵当権者の競売申立に基づ・いてなされたものであるけれども、後順位抵当権に基づく競売の申立は、先順位抵当権を含むすべての担保物権のためにするものであつて(大審院昭和六年一一月三〇日判決民集一〇巻一二号一一四三頁参照)、先順位抵当権者は、原則として、後順位抵当権者の抵当権の実行を阻止することはできず、したがつて、後順位抵当権者の競売申立に基づく競売開始決定は、実質的には先順位抵当権のためにもなされたものであつて、先順位抵当権もその実行の段階に入つたものというべきであるからである。

そうだとすれば、被告平野と被告永本との間に締結された別紙第二目録記載の本件賃貸借は、その期間の満了した翌日の昭和五三年一月一日以降は、その更新をもつて本件抵当権に対抗し得ず、本件抵当権者である原告との間においては、本件賃貸借は、以後存在しないものというべきである。

よつて、民法三九五条により本件賃貸借契約の解除を求める原告の第一次請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

五  次に、前述したところからすれば、原告と被告らとの間において、被告平野と被告永本との間の本件建物に対する本件賃貸借は昭和五三年一月一日以降は存在しないものというべきであるから、右賃借権の存在しないことの確認を求める原告の第二次請求は正当である。

六  よつて、原告の第一次請求は失当であるからこれを棄却し、第二次請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用につき、民訴法九二条九三条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 後藤勇)

(別紙) 第一目録<省略>

(別紙) 第二目録<省略>

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